「あっ! 居た!!」 私がゼリルに教えてもらった公園まで着くとそこにはブランコに座り顔を俯かせている波風ちゃんが居た。 「波風ちゃん!!」 「た、高嶺……!!」 しかし波風ちゃんはこちらに気づくとスッと立ち上がり背を向けて顔を見せないようにする。 「心配したんだよ……? 何かあったの?」 突然私の前から姿を眩ました彼女。何か理由が、私に原因があったのではという考えに行き着き恐る恐る尋ねてみる。 「もしかして……私のせい?」 「違う……そんなことない!!」 こちらに背を向けながら彼女は肩を揺らす。どこか痛々しく辛そうで、無理をしている時の波風ちゃんだ。 「アタシが高音の側に居たら……辛い想いさせちゃうから……だから離れようとして……」 こちらに背を向けているため表情は一切分からないが、その物悲しい声色から大体は察せられる。 「何で……私波風ちゃんのせいで辛い想いなんてしてないよ!!」 「してるわよ!! アタシが死んじゃったせいで……高嶺の心は壊れかけたし……さっきだってアタシが戦おうって言わなければあんな怪我しなかった!!」 「そうだよ……波風ちゃんが居なくなるのは辛いよ……死んじゃうのも、消滅しちゃうのも。でも、まだ一緒に居られるのに、どこかに行っちゃうのはもっと辛いの……!!」 感情を露出させる彼女に応じてこちらもそれ相応の心の内を曝け出す。 「たとえ消えちゃうとしても、居なくなっちゃうとしても私は最後まで波風ちゃんと一緒に居たいよ!!」 「高嶺……!!」 波風ちゃんが振り返り隠していたその顔を露わにする。涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまっており、その涙さえ彼女を拒絶するように地面に吸収されずすり抜けていく。 だが私は彼女を、大切な大親友を受け止め肩に手を回し抱き締める。 「だからお願い……何があっても、最後まで一緒に居よ?」 「う、うぅ……!!」 彼女の大粒の涙は私の肩を伝い皮膚の上を這っていく。夜風が吹き抜け肌寒いこの中、私達はお互いのぬくもりを分け合うのであった。 ⭐︎ 「ごめんなさい……大怪我した高嶺を見て、その現実から逃げるように……」 「こっちこそごめんね心配させちゃって……でもほら生人君が治してくれて元通りだよ!」 私はその場でピョンピョンと飛び跳ねて自身の足の良好具合を示す
「波風ちゃん!! 波風ちゃん!!」 もうすっかり日が沈み地震があったことなど嘘のように静かになった頃、それとは反対に私は大声を上げながら走っていた。「待って高嶺!!」「何で止めるの!? 波風ちゃんを探さないと!!」「もうこんな時間だよ……それにイクテュスや王もどこに潜んでいるか分からない……」「でも……だからって波風ちゃんを見捨てられない!!」 今イクテュスに襲われたら波風ちゃん抜きで変身できない私なんて一捻りで殺されるだろう。それでも彼女を見捨てる理由にはならない。「それで死んで……消滅間際の波風を悲しませて高嶺は満足なの? 少しは残される側のことも考えて……!!」「それは……!!」 言い返せない。私の一時の感情で自らを危険に晒し、あまつさえそれに巻き込んで他のみんなに迷惑をかけ、波風ちゃんを悲しませる結果を描きかけていた。(何で……テレパシーに応じてくれないの……!!) 先程からずっと波風ちゃんにテレパシーを飛ばしているが一向に返答はなく、通話の受け取りさえしないので話さえ聞いてもらえていない。(何か……私が傷つけるようなこと……)「おい」 背後から声がしたのと同時にある男が勢いよく着地する。それは今会いたくない、会ってはいけない存在だった。 私の実の父親の皮を被り、波風ちゃんを殺したクラゲのイクテュス。奴が闇夜を切り裂き現れた。「お前……!!」「待って!」 追い詰められ余裕がない状況で奴の顔を見て激昂する私を生人君がさっと手を出し静止する。「彼はもう敵じゃない……よね?」「少なくとも……オレに人間を傷つけることはもう……できないな」「ど、どういうこと?」 奴の落ち込み生命を慈しむような様子は私が知るような、親友の命を刈り取ったあの悪魔の如き風貌とは大きくかけ離れていた。「彼は……ゼリルは人の命を奪うことに罪悪感を覚え始めて、それで人間とイクテュスの和解を望んでいる……ってことで良いんだよね?」「あぁ……その通りだ」「は……?」 私は言葉にできない感情に襲われていた。もちろんイクテュスと人間が和解できたら、彼らの力を地震の復興に利用できたら人間にとって大幅にプラスになることは分かっている。「……けないでよ……!!」 それでも私は言わずにはいられなかった。親友を、大切な人を殺した奴が提案してきたことが私の逆
「うっぷ……!!」 目の前で気を失った悲惨な姿の親友を見て吐き気が込み上げてくる。この身体で吐瀉物なんて出るはずがないというのに、それでも口を抑える。「この傷……あのスプレーで治せる……の?」 いつも使っているキュア星の技術を使った治療スプレー。軽く骨にヒビが入った程度なら即座に治せるらしいが、今の高嶺の怪我はそんな次元を超えている。「そうだあの子なら……!!」 アタシは先程高嶺のお義父さんの亡骸を元通りにした生人という子供のことを思い出し、すぐにテレパシーを飛ばす。[生人!!!][ごめん今片付いて向かってるとちゅ……][高嶺が……高嶺が大怪我を負ったの!! お願い……助けて……!!][……今学校に居るよね!? もうすぐ着くから見えやすいように立ってて!!] 向こうの声色も焦り出し、そう待たないうちに体育館の上から生人が飛び降りてくる。「酷い怪我……」「治せる……?」「治す際に痛むかもしれないけど、幸い気は失ってるし特に問題ないと思う」 生人は高嶺の身体に触れて治療を始める。少しずつ彼女の膝が治っていくが、生人はかなり集中しているようで瞬きすらしない。その間数回衝撃が校舎側で発生するがすぐに収まる。(あの王とかいうのは……どこかに行った……?) 状況から考えて奴がやったと思うが、こっちに追撃しに来ることもそれ以上破壊活動を行う様子もない。(あの発言や振る舞い……今回は恐怖心を煽ることだけが目的だった……? 完全に舐められてた……そんな状態なのにアタシ達は……負けた……)「治りそう……?」「なんとか……でもかなり負担がかかったし目を覚ますのは夜頃になると思う。ごめん……ボクが居ながらこんな怪我をさせてしまって……」「そ、そんな君が謝ることは……」 かける言葉がこれ以上見つからない。本来アタシとこの子の間にはそれ相応の仲間としての絆があったはずだ。だが酷いことにアタシは彼のことを忘れている。それを彼が良く思うはずがない。(高嶺も……アタシが焦って戦わせなければこんなことには……) 意識を失い見るのも辛い大怪我。もしアタシがあそこで戦闘ではなく交渉を提案して上手く時間稼ぎができていればこんなことにはならなかったかもしれない。(アタシは……高嶺を……大好きな人を守りたかっただけなのに……) アタシが死んでもこの姿で高嶺の側
私達の手から巨大な氷柱が放たれる。奴はそれを容易に躱すものの氷柱は地面に突き刺さり辺りを凍てつかせ、窓や出入り口を完全に閉ざしこの広い密閉空間を私達と奴だけのものにする。「どうした? 逃げる気はないぞ?」「勝手にご想像してな……よ!!」 氷の弾に混ぜて氷柱を蹴って奴の胴体目指して飛ばす。しかし奴は咄嗟に触手を四本展開し氷柱を受け止める。「ほう……直撃したら擦り傷程度にはなりそ……」「今!!」 私はなんとか隙を作ることができ波風ちゃんに合図を飛ばす。リボンが素早く伸び奴の触手や胴体を縛り上げる。「凍れ!!」 リボンは凍てつきそれに触れている奴の身体も一部凍りつく。(これならあの重力攻撃も大丈夫……私達の氷の力の方が強い!!) 実際そのことは奴も理解しているようで、凍てついたリボンに対して重力の力を使ってこない。「ここで……決める!!」 お互い地面に着地し、同時に地面を這っていた氷が奴の足を捉え、氷の牢が奴の下半身に作り上げられる。「ブリザード……」 クラウチングスタートを切るように屈み全身に力を込める。奴へ引導を渡す氷の道が出来上がり、リボンが限界まで伸びミシミシと悲鳴を上げ纏っていた氷が崩れ始める。「クラッシュ!!!」 そして一気に全ての力が爆発し、氷の道を破壊しながら奴の胴体に向かって足を伸ばす。「ふんっ!!」 しかし奴と激突する直前、奴は全身を纏っていた氷を全て砕き牢から脱出する。(なっ……あれを全部……!? でもこのまま突っ込むしかない!!) この威力の蹴りを相殺できるはずがない。私はそう踏んでいた。しかし奴は即座に灰を手から溢しそれを巨大な杖に変形させる。先は巨大な水晶のような物が付いており、硬く重たそうだ。(まずっ……!!) 引き返そうにももう止まれず、私達の必殺技と奴の杖の振り下ろしが激突する。「ぐっ……!!」 辺りに衝撃波が及び出入り口の氷が砕けていく。そしてやがて私達の蹴りの勢いは殺されていき、奴の杖に弾き飛ばされ壇上の壁にめり込み更にそこを突き破って地面を激しく転がる。「うっ……!!」「高嶺……足……が……!!」 変身はさっきの衝撃で解除されてしまっており、同時に下半身の感覚が少しおかしい。そして波風ちゃんに言われその違和感に気づく。「何これ……私の……足……?」 両足の膝が反対方向に曲
辺りに氷の礫が舞い、私達は一つとなり法衣を身に纏いキュアヒーローへと変身する。[いくよ……波風ちゃん][こっちも全力でサポートする。無駄なこと考えてそこ突かれたら許さないからね!!][分かってる……!!] 今の波風ちゃんがどのような感覚で、何を考えているのかは分からない。だが少なくとも私の方は何も問題なく、いや寧ろ以前よりも身体が動かしやすく感じる。「氷の使い手……だったか? 我のこの姿にどれだけ傷をつけれるか試してみるか?」「挑発には乗らないよ……」 キュアリンから受け取った武器を取り出し銃に変形させる。銃口の先を奴に真っ直ぐ向け、引き金に手をかける。(みんな逃げ始めて衝撃が及ぶ範囲に人は居ない……でも奴が動いたら……ならここで機動力を断つ……!!) 銃を向けられても奴の表情に変化はなく不気味に、不敵に笑みを貼り付けている。(撃てる……今ここで……殺せる!!) 奴は隙だらけで確実に仕留めらると思った。素早く引き金を引くが、次の瞬間発射された氷の弾は地面に突き刺さっていた。[触手で……いやその前に弾が落ちた……!?] 明らかにおかしな挙動をした弾。その不気味さに鳥肌が立つのも束の間。もう既に奴が眼前に迫っていた。背中に生やした触手を叩きつけ、その反動で推進力を生み急接近してくる。(ここは一旦引かないと……!!) 一旦距離を取って立て直そうと後ろへ跳び迫りくる触手を躱そうとするが上手くいかない。かなり勢いをつけたはずなのに全く後ろへ下がれない。「身体が……重いっ……!?」 まるで鉛をコーティングされたかのように全身がズシりと重くなっており思うように動かせない。そのことに驚愕していると横に振られた触手が脇腹を捉えてしまう。「ごふっ……!!」 血を吐きながら吹き飛ばされるが、壁にめり込むことなく私は空中で数回回った後着地する。[ごめん防ぎきれなかった!!][大丈夫……なんとか致命傷は避けられた……みたい] 脇腹にはリボンが何重にもなって巻き付いて肌を守ってくれていた。あのハンマーの奴でも簡単に引き千切れないこれがあってもこのダメージ。全身に鋭い電流が走り危険信号を発する。「ほう……中々面白い力だ。どれ、他には何ができる? 我自身この力にはまだ知見が浅くてな……」 こっちが体勢を立て直そうとしているのに奴は遠慮なくグイ
「やめろっ!!」 波風ちゃんの身体を使っていることもあり抵抗があったが、それでも目の前の友人を助けるべく親友の皮を被ったナニカに飛び蹴りをくらわす。「硬いっ……!?」 人間ならかなり痛い一撃になるはずなのに、ダメージを受けたのは攻撃した私の方だ。奴は岩のように硬く人間の地力でダメージを与えられるイメージが全く湧かない。「誰だお前……いや、後ろの半透明の……報告にあったな。キュアヒーローとやらか?」(波風ちゃんが見えてる!? ってことはこいつも……!?) 背中に冷たいものが走る。人間態でこの硬さ。それにイクテュス態以上の強さを持つ法衣の姿にもなれるということだ。「まぁお前は離してやろう……もう必要ない」 朋花ちゃんは乱暴に投げ捨てられ、体育館内に貼ってあったテントに激突し頭から血を流す。「朋花ちゃん!!」 助けに行こうとするが、この姿で奴の隣を駆け抜けることなどできない。幸い周りが恐れながらも彼女を手当てしに行ってくれている。遠目で見た感じ致命傷にはなっていないし、死ぬことはないだろう。「この姿は非効率だな……戻るか」 奴は首に注射器を刺し、身体をメキメキと変貌させタコのイクテュスへとなる。「人間ども!! 我はイクテュスの王である!!」 奴はこの場に居る全員に聞かせるように大きく、高らかに名乗りを上げる。「なんだあの化け物……うわぁぁぁ!!」 奴がイクテュス態になったことで辺り一面が混乱に包まれる。慌てふためく者、悲鳴を上げて逃げる者。腰を抜かして逃げられない者。全員が恐怖を心に植え付けられる。「このように我らは人間とイクテュスの姿を自由に入れ替えることができる!! 今怯えている貴様らの中にも同胞が居るかもしれないな……」 また辺りの空気が一変する。隣の誰かが化け物かもしれない。そんな不安が過ぎり疑心暗鬼の色も空気に加わる。「そしてそこに居る女はキュアヒーローだ。貴様らの希望のな。そしてその希望を今ここで打ち砕く」 奴は触手でブローチを持ち皮膚に貼り付ける。すると人間の姿に戻っていき出現したステッキを手に取る。「キュアチェンジ」 ステッキが黒色の禍々しい宝石に変わり奴の胸に張り付く。そこから触手が伸びるように法衣が全身にできていき、奴は深い黒に近い青色の、深海のイメージを浮かべさせる法衣を纏うのだった。「高嶺……変身する